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International Cooperation Projects
サルト/ヨルダンハシミテ王国
「リビングヘリテージとしての挑戦」
ヨルダンは、イスラエル、シリア、イラク、サウジアラビアと国境を接する。そう聞くだけで危険なイメージがともなうが、実際は石油の出ない貧しくも穏やかな国だ。北部が高原冷涼地であることから、首都アンマンが周辺産油国の避暑地やビジネスの出先となっている他、経済は死海や宗教聖地、遺跡、砂漠などを資源とする観光に頼っており、ここサルトにも観光都市としての発展が期待されている。 サルトは、19 世紀の近代国家ヨルダン誕生の舞台となった都市であり、世界遺産の国内暫定リストにも掲載されている。都市景観は、中世集落群から発した商業都市の基盤の上に、商人達が財力を惜しみなく注ぎ込み、黄色を放つサルト石をふんだんに用いつつ伝統工法と近代技術をともに駆使して一気に築き上げたものである。そこには、モスクや教会、商人の館といった歴史的建築物だけでなく、20 を数える部族ごと固有に受け継がれている商習慣やもてなしの文化が、今なお多彩に息づいている。マダーファと呼ばれるアラビアコーヒーでの接待空間、伝統的な窯焼きパン屋やケバブの店、羊肉や鶏肉の専門店など、未だ観光客の目に曝されていない価値を、人々の暮らしの中で、ありのまま今日に伝えている。 近年、こうした有形・無形、動産・不動産の宝物が渾然一体となって魅力を放つ遺産のことを「リビングヘリテージ」と呼ぶようになり、注目を集めている。アラブを色濃く語る小都市サルトが、リビングヘリテージとして世界の遺産地図に名乗りを上げる日は近い。