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Urban Policy and Planning / Community Design

マンハッタン/ニューヨーク 「NYの愛着とこだわり」

アメリカ合衆国における都市遺産保全に興味を持ち始めたのは、「成長管理」の思想が日本に紹介され始めた80年代末であった。歴史的建造物を都市市街地で保全するために考案されたTDR(民間土地建物の空中開発権移転)手法が実際の都市においてどのような景観を創り出しているのか見たいと思いNYに繰り出した。そこでイメージ通りの風景、lower Manhattanの摩天楼の谷間に緑をたたえて佇む教会に出会えた(表紙)のだが、残念なことにこれは、1960年から国指定記念物として保護されているもので、TDRの産物ではなさそうである。とはいえ、合理主義を極める米国の都市が、自らの品格を示すため、経済原理を巧みに応用しつつ、不合理にも見える景観に愛着を見出し堅持する姿には見習う点も多い。

一方、都市の中を走る廃線となった鉄道高架をそのまま遊歩道に整備した話題の”High Line”である。この道が人の心を惹きつけるのは、センスのよい歩道整備もさることながら、何より、バックヤードを黙々と走っていた貨物列車から都市を見る視点を散策者に提供したからである。NYに建築の最先端デザインを見に来た旅行者には、むしろ新旧様々な赤煉瓦建築にこだわり続けるNYに意外性を感じるのではないか。途上国では、今も素焼きの赤煉瓦が、あらゆる建築を創り出す最良の建材である。マンハッタン島に移民が築き上げた都市が、やはり煉瓦造であったことが、今もニューヨークっ子のアイデンティティであるのなら面白い。

ニューヨーク1*
見渡す限り、中景には新旧様々な赤煉瓦建築が広がり、旧いものも大切に手入れされ誇らしげに使われ続けている。遠景は、これも近代化遺産?のエンパイアステートビル。
ニューヨーク2*
lower Manhattan、9.11メモリアルパーク脇のSt. Paul’s Chapel(1960年にNational Historic Landmarkに登録)。
ニューヨーク3*
Manhattanのlower west sideを走っていた線路の高架跡を南北2.3kmにわたり遊歩道整備した”High Line”。